谷川俊太郎さんの詩から学ぶ 効果的な書き方 (8) 宇宙人との対話

呟くような言葉が男の口から漏れた
<女王はその事実に耐えねばならない>
男が口をきいた瞬間恐怖は鎮まった
なんだこいつ売れない役者なのか
誰が書いた台詞だっけ
ラシーヌか
私に口をはさむ間を与えず男は続ける
<だが野の寡婦は事実を生きるしかない
体内の寄生虫とともに菌とともに
君はどうする気だ?>
私に問いかけているのだと知るまで五秒かかった
「へ?」
我ながら間抜けな返事
男が相当な年寄りだということに気づいた
顔中皺だらけ前歯も二本欠けている
<君に見えているものは
それが何であれ歴史に属する>
何言ってんだいきなり
「誰なんだ あんた?」

詩集『トロムソコラージュ』谷川俊太郎著pp..38-39より

この詩の主人公(谷川さん?)の家に見知らぬ人が突然入って来て、< >の中の言葉を喋ります。何か意味ありげなことを言っているようですが、脈絡がなく、突拍子なく、宇宙人のように得体がしれません。
谷川さんは、宇宙人の語る< >の合間に、「何をだよ?」とか「びっくりカメラ?」などと突っ込みを入れたり、男の様子を描写したりします。

男の呟きには明らかなスタイルがある
非日常的な発語
答えを期待していない疑問形

このように宇宙人との対話の形をとると、「宇宙人の語る難解な詩の言葉を、谷川さんが解説してくれる」という効果があるのだと思います。
難解な言葉が出てきて、読者が「どういう意味なんだろう?」と悩んでいると、その後で谷川さんが「何言ってんだいきなり」と突っ込んでくれます。そうすと読者は「ああ、理解できなくてもいいんだ」と安心することができます。
そして、その後の谷川さんの心の中の言葉を読みながら、谷川さんといっしょに、宇宙人の謎を解き明かしていくことができます。

漫才でいうと、宇宙人はボケ役ですね。哲学者のような、預言者のような、詩人のような…暗示的で分かりづらいが魅力的な言葉を、思いつくままにポンポン語っていきます。
それに対してツッコミ役の谷川さんは、「なんでやねん!」とか「それちょっと面白いやないか」とか「なんや、ホームレスやったんかい!」といった合いの手を入れて、読者に面白さを気づかせてくれます。

小説のようにストーリーを進めていくための会話ではなく、即興漫才のような、何が起こるか、どんなオチになるのか、先の読めないスリルがあります。
もしかすると書いている谷川さんも、一人二役でボケたりツッコんだり、先が見えないまま即興で書き連ねているのではないでしょうか?

上手くいけば大喝采のスタンディングオベーション。失敗すれば大ブーイング、になるかもしれませんね。