谷川俊太郎さんの詩から学ぶ 効果的な書き方 (9) 不完全な言葉

一瞬と歴史と永遠をごったまぜに
青空の深みで金属が若い体を引き裂いた
人を殺すために作られた重い機械が
かげろうと同じ原理で空に浮かび
世界がそんな滑稽な仕組みであることに
少年はおとなになるまで気づかないだろう

詩集『続・谷川俊太郎詩集』谷川俊太郎著p.96

1行目の「一瞬と歴史と永遠をごったまぜに」というのは、不完全な言葉だと思います。
「一瞬」と「歴史」と「永遠」という時間を、「ごったまぜ」にすることは、論理的には無理なので、それがどういった理由で可能で、それがどういった時間になるのか、本来なら、数行、数十行、場合によっては数十ページかけて説明する必要があると思われるからです。
戦時中の時間が通常とは違うということを伝えたいなら、せめて、「特殊な時間」「混乱した時間」「無秩序な時間」といった既存の形容詞と名詞で書かれていれば、正しい日本語になるのですが……。

不完全な言葉で読者に無茶ブリすることは、どういった効果があるのでしょう?

よく「読者の自由な想像力にゆだねる」などという作者の解説がありますが、それは何か違う気がします。頭の中に明確に伝えたいものが無くて、ただ技巧的に書かれた意味不明な言葉では、読者に何がが伝わる確率は、限りなくゼロに近いと思われるからです。

谷川さんの頭の中にある戦時中の時間の様子を伝えようとした時に、この「一瞬と歴史と永遠をごったまぜに」という言葉が、一番実物に近く、考えうる限り一番正確な言葉だったのではないかと思います。

頭の中にある戦時中の時間の様子を、集中して思い浮かべているうちに、即興的に(無意識のうちに?)出てきた不完全な言葉を、なるべくそのままの形で書き記したものなのではないでしょうか? 後で説明的な言葉を加えたり、日本語的に伝わりやすいように加工したりせずに、出てきた言葉をそのままに。

言語学などの知識が乏しいので神秘的な言い方になりますが、そのようにして出て来た不完全な言葉は、思い浮かべる集中の度合いに比例して、読者に伝わる確率が高まるのだと思います。(だったらいいなと思います。)