片根伊六 帳

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病院の記憶

            病室で

僕と おじいさんは   隣どうしだった。

その日も おじいさんは 戦争のことを 話し始めた。

大砲の音が聞こえると 普通のやつは 恐くなって、 後ろに下がるんだが ワシらは、逆に どんどん前進したんよ

なぜだか分かるか?

大砲は、 遠くに飛ばすことばかり 考えとるから ワシらは、逆に 近づいてやったんよ

勇気がいったが、 ワシらだけが生き残ったよ

日本刀は 刺したら すぐに 引き抜かないかんのよ

なぜだか分かるか?

肉が締めつけて 抜けなくなるんよ

ワシは 戦争で 13人殺したが そのうち 4人は 刀で殺したからな

夕方、 屋上のベンチで ポカリスエットを 飲みながら おじいさんのことを 考えていた。

僕の わき腹には、 透明なチューブが 埋め込まれていた。

看護婦さんが 二人 楽しそうに話しながら タバコを吸っていた。

ビルの街に 夕日が沈み

ずっと 病院にいたい と思った。

     

「同室の老人の六十年も前の戦場の思い出話をまず書いていて、終わりの方の、戦争などまったく知らない「僕」のわき腹の「透明なチューブ」のことが出て来る。ここで現代がわずかな言葉のうちにするどく見えて来る。[……]ストレートな詩で、方法的な新しさなど眼中にない。しかしこうしてみるとなかなか迫力がある。」 飯島耕一「今月の作品・選評」『ユリイカ/1997.9』p255。