片根伊六 帳

[ かたねいろく ]  コメントはWEBページに表示されず、管理者のみに送信されます。

子供と孫

            「こ こ ここは……」

「何人かのズバ抜けた哲学者たちが創った」 「抽象世界だ」

急に 予定されていたかのように 目が覚めて 時計を見ると 2時7分だった (今は3時3分ジャストだ) 誰もいなくなっていたのだ そして 知り合いが大勢あつまっていたのだ

真っ暗な きりがない いつか行ったことがある という設定の 野外劇場の廃墟のような空間に 大勢の ヒト型の人達があつまっていた

全員 僕の知っている人達だった どこで知り合ったのかは忘れたが その時は 全員の名前を言うことができた 真っ暗だったが 赤外線暗視カメラのような効果で 灰色の光の中に クッキリと見ることができた

僕だけ色がついていて 他の全員はモノクロだった

レーザー光線的なもので 僕と血のつながった人達を連結して 遊んだ後で 隣の人に 何か話しかけた

名前を忘れた気がしたので 話しをそらして 時計を見るふりをした 「そろそろ 子供が帰ってくる時間なんで……」 と 別れの決まり文句で 別れ 人混みをかき分けて 右斜め後ろに向かった

僕の子供の名前がわからない ぜんぜんイメージできない 5分前に拾った電話帳をめくって ピッタリな名前を見つけようとしたが どれも ぜんぜん違うと感じる 僕の子供はどこにいるのだろう? この不思議な群衆の中に どこかに いるはずなのだが……

子供を見つけることはできなかったが 孫を見つけることができた とても可愛い おもちゃのような孫だった

「おじいちゃん なんでここにいるの?」 「あぁ ちょっと近くまで来たから……」 「盲腸は大丈夫だった?」 「うん 腹膜炎で危なかったけど なんとか 成功したみたい」 「じゃあ またこんどね」 「うん 君は あのとき救急車で運ばれて来た子だね だいじょうぶだったんだね」 「さあね」

孫のカルテを覗いてみると ドイツ語で名前が書いてあった

ほっとして なにげに上から見ると 知り合いの群衆の外側を 知らない人でできた群衆が取り囲んでいた そして 知り合いの群衆が空気になって ドーナツのように穴があいた

巨大な何かが ドーナツを食べようとしている

僕の子供の名前が知りたい

     

今まで片根さんの読んだうちで一番おもしろいなと思って、楽しく読みましたよ。[…]構成の仕方が片根さん独特のものがあって、やっぱり詩人、詩を書くってうまいとか下手だとかいろいろあるだろうけども、私はどうしてもその人自身が、そのままじゃなくてもちろん作品化してだけど、特徴とか個性となって出てきているものにとてもひかれますね。[…]「子供と孫」の設定でこういう内容が書けるというのはいままで無かったと思うな。関富士子 タイトルで「子供と孫」なんて並べ方、ありふれていそうだけどもちょっと知的なおもしろさを期待させるものがあって、読んでいくとそれを裏切らなかった。さっき構成がよいとおっしゃったけど、確かに社会、時代のとらえどころのなさとか、自分の地位とか関係の寄る辺なさとか、うまい構成で書かれていますね。編集部 「研究作品選」『詩学/2000.4』pp..92-94。