片根伊六 帳

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高速移動装置の中で

            速い音楽の流れる高速移動装置の中で。

白い陰から現れたシックな女性に敬礼する。 君は、あなたは、おまえは、あんたは……。 僕は二人称を使うのが苦手。 シックな女性は僕を「タカシ」と呼んだ。 僕は彼女を「ケーワイさん」と呼んでみた。 僕が以前つくった物語の。 登場人物の名前だ。 乗り物が等速運動に入り。 僕らは相対的に静止した。 速い音楽も空中で静止し。 音素が姿を表した。 僕は眼の前の音素をいくつか手に取って。 掌の中で、もてあそんでいた。 ケーワイさんには心が無いのだと分かった。 音素に興味を示さないからだ。 ケーワイさんは公平さを手に入れるために。 心を除去したのだ。 純化された思考判断で、どうか僕を公平に。 分析しないでください。 この球体の乗り物は。 どっちに向かっているのですか? 空間の始まりから、空間の終わりの方へ。 どういう意味ですか、ケーワイさん。 レトリックを使うのはやめてください! 時間の始まりから、時間の終わりの方へ。 僕、そういうのはウンザリなんです! ケーワイさん。 僕を侮辱しないでください、ケーワイさん。 ……とはいえ、人はいつも。 同時代的でなければならない。 やがて音素が流れだす。 隣接するもの同士が関係をもち。 黄色く溶けて、グルグルまわりはじめる。 音楽が加速していく。 そろそろお別れですね、ケーワイさん。 僕は結末を要求するタイプなんです。 もう、会うことはないでしょう。 では……。

   

詩学/2001.7』