文体練習

片根伊六(かたねいろく)による、詩、物語、小説、エッセイなどを掲載しています。

女の人/川端康成/メカヘビ

            電車で、僕は女の人を見ていた。たまたま押されて、女の人が座っている前のつり革までやって来た、という資格で僕は、文庫本を読むフリをしながら、見ていた。慎重に。<!--more-->

帰りの電車でよく 『雪国』のはじめの部分を思い出す (今までに七回くらい)

川端康成は けっこう好きだ

「汽車のなかはさほど明るくはないし、ほんとうの鏡のように強くはなかった。反射がなかった。だから、島村は見入っているうちに、鏡のあることをだんだん忘れてしまって、夕景色の流れのなかに娘が浮かんでいるように思われて来た。」

音だけを思い出した 風景は思い出せなかった (あの映画の題 なんだったっけ?)

いつの間にか着いている

井の頭線の車両には、連結部分に扉がない。だから、一番前か一番後ろに乗ると、i一〇〇メートルくらいの長い空間が、カーブに合わせて生き物のようにうねっているのが見える。僕は、夜の速い大きなヘビの中のようだと思った。メカ・ゴジラじゃなくて、メカ・ヘビだな、と思った。 例えば、あの女の人の意識と僕の意識を入れ替えることができる、方法があるとして、僕はそれを使うだろうか? 入れ替わった女の人としての僕は、ふと、広告を見るフリをして、前に立っている男の人を、ちらっと、見るだろうか? 何を考えながら?

   

詩学/1999.5』