文体練習

片根伊六(かたねいろく)による、詩、物語、小説、エッセイなどを掲載しています。

女の子とライターとリンゴ

            夏なのに

表参道に、枯葉がつもっています。 日焼けしたマッチ売りの女の子が タンクトップで タケフジのマッチを配っています。 「マッチはいかがですかぁ?」 ぼくはマッチを受け取って、代わりに ニコルのライターをかごに入れました。 高くはないけど、とても 気に入っていたやつです。

「彼女は、何に凍えて死ぬのだろう?」 と、ふと考えました。

青山通りにさしかかると りんごの香りがしてきました。 エレガントな作業服を着た紳士が、青空の下 りんごの収穫で汗を流しています。 「おひとつ、いかがですか?」 と言って、りんごを三つさしだしました。 ぼくは、お礼を言って、りんごを二つ 受けとりました。 そして、大きい方のりんごをかじりました。 すばらしい、りんごです。 おばあちゃんが作ってくれた 自家製りんごジュースの味です。

「そうだ! もう一つは、あの子に あげることにしよう!」 と、ぼくは思いました。

     

「現代の風俗をうまく取り入れている。しかもそれを批判したり、距離を持つのではなく、むしろ共生(?)しようとする自然さが、やわらかなものを感じさせる。」 柳生じゅん子「読者投稿作品・選評」『詩と思想/1999.12』p107。