文体練習

片根伊六(かたねいろく)による、詩、物語、小説、エッセイなどを掲載しています。

男と女

            舞台の背景は白い漆喰の壁面。

舞台装置としては、舞台のやや右よりに、若手漫才コンビのショートコントで使われるような折り畳み式の椅子が2脚あるのみ。 幕があがり、5秒後にロングスカートをはいた女が早足で登場。 女、舞台中央で逆立ちをしようとする。 女の脚が上がるのと同時に照明が消え、一瞬、真っ暗になる。 暗闇の中でドスンという音が響き、そのコンマ5秒後に照明が点灯する。 女、仰向けに倒れて、痛そうに腰を押さえている。 照明点灯の2秒後に、男、新聞を読みながら登場。 女のすぐ横を通りすぎ、1メートルほど進んでからピタリと静止する。 3秒間静止した後、ムーンウォークで戻り、女に向かって……

男「ぼくの文章はどうでしたか?」 女「……」 男「逆立ちは、よくやるんですか?」 女「……」

女、客席から見て左側の椅子に座り、タバコを吸い始める。 男、右側の椅子のそばに行き、女の方を見る。

女「どうぞ」 男「失礼します」

男、右の椅子の上に立つ。

男「あなたの太股は意外と大きいですね。」 女「……」 男「9時53分の電車で何度か視線が会ったことがありますね。」 女「……」 男「僕が泳いでいる時、いつも見ていますね。」 女「……」 男「息継ぎの時に……」 女「殺す……」 男「あなたは、平安時代によくあるタイプの顔をお持ちですね。」 女「……」 男「メカゴジラはお好きですか?」 女「目がゴジラ……」 男「……」 女「……」 男「後ろ歩きは得意ですか?」 女「ええ、もちろん!」

女、椅子から立ち上がり、後ろ歩きで退場。 男、椅子を2つとも折り畳み、左手で抱え、右手に持った新聞を読みながら退場。 男がはけて2秒後、静かに幕が下りる。 サクラ1、客席の前から3列目やや左寄りで立ち上がり、スタンディングオベーション。 サクラ2、2秒後に、前から6列目やや右寄りで立ち上がり、同じくスタンディングオベーション。 以下、他の客の様子を見ながら、サクラ3、サクラ4、と続く。 サクラ5でダメなら、あきらめる。

   

詩って何かなと思うと、ますます僕はわからなくなってきちゃった。これはほんとにコントとも読めるし、戯曲の一部分としても見られるし、ただ単に文字の羅列とも見られるし、ユーモアを気取ったただの文章というふうにも見られる。そうすると詩っていうのは何なのかなと僕は不思議に思いました。逆に言うと、じゃ、これは詩なのかとも思ったわけですね。 金井雄二『詩学/2000.12』