文体練習

片根伊六(かたねいろく)による、詩、物語、小説、エッセイなどを掲載しています。

髪を染めることにした

            髪を染めることにした。ベッドの中でなんとなく思い立って、今日中に髪を染めると決心した。高揚した気分でバッと跳ね起き、掛けぶとんを跳ね除け、あたかも期末試験の開始時間を自分の部屋でむかえた時のように、ニーチェアーに掛けてあ<!--more-->るジーンズを無意識的にダッシュではいた。ベッドから出て1分とたっていなかったが、この時点で既に、コンビニや夜の研究室くらいなら平気で行ける服装になっていた。

なんて機能的な生活なんだろうかと我ながら関心して、けっこう良い気分だった。トランクスとTシャツで寝ているから、ジーンズをはくだけで、いつでも外出できるのだ。あとは、玄関(ワンルームマンションのキッチンスペースと兼用の曖昧な玄関)に行って素足でもおかしくないキャンバス地のバッシュを履き、ドアの横の棚に置いてある財布をジーンズの右後ろポケットに入れ、同じく棚の上にあるカギをとって、ドアを開け、1歩外部に踏み出すだけだった。したがって、ベッドで寝ている状態から「外出」が成立するまでの時間は(理論的には)2分以内に納まるのだった。

約1分30秒後、既にジーンズの右後ろポケットには財布が入っており、バッシュに両足を入れて左手の人差し指を使って履きながら、同時にカギを取ろうとして右手を棚の方に伸ばしていた。中腰で視線は目の前のドアを見据えたまま(バッシュの方もカギの方も見ずに)、無意識的に滑らかに、その2つの作業を同時進行ささていた。 ロスタイムがゼロに限りなく近く、よって、ラップタイムが理論値に限りなく近いと思われ、それはあたかも一流のスイマーがリニアモターカーのように水面を滑る時のように効率的で、自分の身体能力が平均値よりかなり高いレベルにあるのではないかと感じられ、好調な二塁手がセンター前の当たりをゲッツーにした時のように高揚した、良い気分だった。