彼は雪女に会ったことがある。
14才だった。 冬の満月の夜だった。
夢の中か、空想の中か、 現実の中だったのか…… 定かではない。
ただ、彼の記憶の中に、 雪女に会ったという 記録が確かにある。
彼と雪女は、学校の渡り廊下の、 ちょうど真ん中ですれ違ったのだった。
彼は、3番目の校舎の教室の前の廊下を歩いて来た。 そして、突き当たりの角で左に曲がって、 2番目の校舎に繋がっている渡り廊下の方へ向かった。 ちょうどその時に、雪女が、 向こうの正面に現れたのだった。 彼女は2番目の校舎から渡り廊下を通って、 こっちの、3番目の校舎に来ようとしていた。 彼はそれに気づいて ギクリとした。 彼は既に、渡り廊下の方へ向かって歩いている。 彼女の方もこっちに向かって歩いて来ている。 途中で引き返すというような、 あからさまなことは、彼には出来ない。 逃げるようで卑屈だし、彼女に対しても失礼だ。
彼は、彼女に気づいてなフリをしようと、 下を向いて、考え事をしているように装って、歩き続けた。
彼の下を向いた視界に、彼女の下半身が入った。 そして、すれ違った。 すれ違った直後に、横目で視線を上げて、 彼女の顔を見ようとした。 でも、その時はもう、彼女の後ろ髪しか見えなかった。
それから4、5秒たってから、彼は慎重に 後ろを振り向いてみた。 彼女はちょうど、角を曲がるところだったので、 横顔を見ることができた。