彼はもともと武器ではなかった。
礼儀正しくて大人しい道具だった。 近所でも「良い道具だ。良い道具」だと評判だった。
何か環境が悪かったのかもしれない。 時代の流れについていけないと感じたのかもしれない。 だんだん、うっくつしていって、 嵐の夜にほくそ笑むようになったのかもしれない。
思い出すと身震いしてしまう。
どこでどうなったのか、何が動機だったのか 誰かが関係しているのか、どれだけ大変だったのか 私たちには思いもつかないようなことが いろいろとあったのだろう。
カタカタカタカタ ブーンブーン カタカタカタカタ ブーンブーン
遠くの方から彼の鳴き声が聞こえてくる。
だんだんこっちの方に近づいて来ている。
この町も、もう、人が住めるところではなくなるだろう。
逃げる場所は、この世にはもう存在しないということを 私たちはうすうす気づいている。 彼らの勢力は、そのうち世界中のすみずみにまで 広がっていくことだろう。
でも私たちは、たんたんとトランクに荷造りをする。 他の選択肢には気づいていないふりをして。 悲観的でも楽観的でもなく。
カタカタカタカタ ブーンブーン カタカタカタカタ ブーンブーンブーン