文体練習

片根伊六(かたねいろく)による、詩、物語、小説、エッセイなどを掲載しています。

武器 (詩)

            彼はもともと武器ではなかった。

礼儀正しくて大人しい道具だった。 近所でも「良い道具だ。良い道具」だと評判だった。

何か環境が悪かったのかもしれない。 時代の流れについていけないと感じたのかもしれない。 だんだん、うっくつしていって、 嵐の夜にほくそ笑むようになったのかもしれない。

思い出すと身震いしてしまう。

どこでどうなったのか、何が動機だったのか 誰かが関係しているのか、どれだけ大変だったのか 私たちには思いもつかないようなことが いろいろとあったのだろう。

カタカタカタカタ ブーンブーン カタカタカタカタ ブーンブーン

遠くの方から彼の鳴き声が聞こえてくる。

だんだんこっちの方に近づいて来ている。

この町も、もう、人が住めるところではなくなるだろう。

逃げる場所は、この世にはもう存在しないということを 私たちはうすうす気づいている。 彼らの勢力は、そのうち世界中のすみずみにまで 広がっていくことだろう。

でも私たちは、たんたんとトランクに荷造りをする。 他の選択肢には気づいていないふりをして。 悲観的でも楽観的でもなく。

カタカタカタカタ ブーンブーン カタカタカタカタ ブーンブーンブーン