谷川俊太郎さんの詩から学ぶ 効果的な書き方 (16) 「僕」=作者と思われたくない時

何もないところに
忽然と立っている
ひとりの女とひとりの男
そこからすべては始まる

青空?
よろしい青空をあげようと誰かが言う
そしてふたりの頭上にびっくりするような青空がひろがる
地平線?
よろしい地平線をあげようと誰かが言う
そしてふたりの行く手にはるかな地平線が現れる

詩集『真っ白でいるよりも』谷川俊太郎著p.7より

 詩や小説では、主語が自分になることが多いと思います。「僕」「ぼく」「私」「わたし」「俺」「あたし」など。
 そして、詩では特にそうですが、「僕」=作者自身と思われることが多いと思います。あからさまなフィクションであっても、「僕」の感じ方や行動の傾向は、作者のそれと同じだと思ってしまいます。描写や心情がリアルなのは、作者の実体験が元になっているからに違いないと。

 むしろ、「僕」=作者自身と自然に感じらることは、作品が上手くいっている証拠なのかもしれません。

 でも、たまには、「僕」と作者である自分とは、切り離して欲しいと思うことがないでしょうか?
 内容や話し方や行動の仕方によっては、作者である自分と同一視されると、書きづらいということもあると思うのです。

 そんな時の一つの手段として、引用させてもらった詩のような語り口は便利だと思います。
 「ひとりの女とひとりの男」が「何もないところに」「忽然と立っている」というのは、童話や昔話で「むかしむかし あるところに おじいさんと おばあさんが」と言うのと同じだと思うのです。
 いつも通り書いたものを、後で語り口だけ替えてみてもいいと思います。語り口を変えて、違和感が出てきた部分を修正して、足りないと感じる部分を加筆していけば、まったく違った、自分にとって新鮮な作品に生まれ変わると思います。