文体練習

片根伊六(かたねいろく)による、詩、物語、小説、エッセイなどを掲載しています。

こばんザメ

 赤ぼうしクラスの後のプールには、いつもこばんザメがいます。
 1コースの下のあなから入ってきて、1時間プールですごして、3時半になると、またあなから出ていくのです。
 あなから出はいりしているところは、まだ見たことがありませんが、たぶんそうだと思います。
 他に考えられません。

 わたしの他に、こばんザメに気づいている人はいないと思います。
 言っても信じてもらえそうにありませんし、へんな人だと思われるのもいやなので、まだだれにも話していません。
 わたしだけのひみつです。

 こばんザメは、一番速く泳いでいる人のおなかにくっつきます。
 こばんザメがすべてそうなのか、このこばんザメだけがそうなのかは分かりません。
 背泳ぎの人が一番速い時は、もちろん背中にくっつくことになるのだと思います。
 背泳ぎの人の背中にくっついているのは、まだ見たことがありません。

 こばんザメにくっつかれると、ヒヤっとして、こそぶったいです。
 でも、しばらくすると、だんだん気にならなくなってきて、ちょっとあたたかくなります。
 そして、体がかるくなって、手も足もくるくる回って、いつもよりスピードが出ます。

 わたしはこれまでに、3回しか、こばんザメにくっついてもらったことがありません。
 土曜日の午後は、大人の泳ぎのうまい人が多いからです。
 中でも1人、とんでもないスピードで、しかも1時間以上ずっと泳ぐ人がいて…、その人がいる日は、いつもはじめから、あきらめています。
 ヒゲをはやした、おなかの大きなオジさんで、なんでこんなおなかで速く泳げるのかと、いつもふしぎに思います。
 オジさんのおなかは丸いので、こばんザメはくっつきにくそうです。
 たまに、ポロっとはがれて、あわてておいついて、またくっついたりしています。

 このまえ黒ぼうしになって、曜日がかわったので、もう1ヶ月くらい、こばんザメにあっていません。

 また、こばんザメといっしょに泳ぎたいな。