文体練習

片根伊六(かたねいろく)による、詩、物語、小説、エッセイなどを掲載しています。

その三つに分類されない自己意識

 人間を見ている。僕の視界に入ってくる人。そして視界から消えていく人。様々に自立して動作している。そして、その全員が自己意識を内にもっているのだ。まったく、すばらしい。いくら見ていても飽きない。ついつい感情移入してしまう。そして、きまって思考がオーバーフローして、フリーズしそうになってしまう。
 この空間の中で、視線をきょろきょろさせて、無作為に人を見ているのは僕一人きりだ。ある人は自分の自己意識空間に入り込んで、メディアに没頭している。ある人は、何か目的をもって動作している。ある人は、他の人とコミュニケーションをとっている。
 僕以外にも、その三つに分類されない自己意識があった。あの男の子は何を考えているのだろう。ちょくちょく僕と目が会う。そのうちこっちにやって来て話しかけてこないかと心配になる。一人掛けのソファーに座って、行儀よくしているが、目はきょろきょりして、みさかいなく誰かれかまわずに感情移入しているのが分かる。今は五メートルくら離れてところで双子の赤ちゃんをあやしている若いお母さんに感情移入している。いや、双子の赤ちゃんのうちのどちらかだ。親指をしゃぶって、泣きそうな顔になっている。双子がお母さんの押すベビーカーとともに視界から消えてしまうと、今度は、白いトレーナーのポニーテールの女の子にロックオンされたようだ。彼女と同じように、背筋をピンと伸ばして、スポーツをしている人特有の効率的な足取りで、商品を受け取りに行った(座ったままで足ぶみをした。爪先までピーンと伸ばして)。