文体練習

片根伊六(かたねいろく)による、詩、物語、小説、エッセイなどを掲載しています。

詩(暗示度:大)

旅、神様の代理として

ケンイチウジ さらばでござる せっしゃは、旅に出るでござる どこまでも軽やかに この足を使って 涙がでるような風景を おしげもなく 高速で向こうへ 吹き飛ばしながら 灼熱と極寒と 光と闇と 眠くなるような幸福と 冷たい感動のような恐怖と 熱湯のような快…

青い風景

拡声器を持ってふり向いた 天使のヌードが 虹色の翼を大きく広げ オレンジ色の音色をとどろかせた 静かに透き通ったその音波は 水平線を越えて 隣の大陸まで届いたと 言い伝えられている

F戦記

鍵盤からたちのぼる 火あぶりのにおい 白鳥の空洞から 動く海沿いの迷路へ 城壁に突きささる 紙飛行機に便乗して 時計に反応する センサーをなめる 黒と金色の丸みのある クローズアップ 内臓からバラがしたたって 砂の武器が完成する

朱色からオレンジに

とがっていて、やわらかい。 白いものは汚れない。 はりつめた長い時間の中で すこしだけゆるむ時がある。 そういうところから生まれるのかもしれない。 朱色からオレンジに向かう途中の 絶妙なタイミングで。

桜の密林に

桜の密林に冷たい嵐が吹きすさぶ中 手のひらで目をかばいながら 無菌室の桃のような まぶたと頬が 真昼の月光に同化する 消えてしまいそうな髮の毛 青白い はかない 悲しみをいつも含んでいる

私の脳シナプスの幻影 (詩)

私は、私の脳シナプスの幻影であることを、ともすると忘れてしまいます。 無邪気に生活をいとなんでしまうのです。 あらゆる感覚が生々しく、ほこりのひと粒ひと粒が……、ちぎれたトイレットペーパーでさえも……、確かに疑いなく在るように感じられて、困って…

ら行の練習 (詩)

奥歯の上の方がにんまりする。 目の方に向かって、ひらがなの伝言がのぼっていく。 息が漫画みないに赤っぽくなる。 15度かたむいたり、戻って反対側に5度いったりする。 頭の中に大きなカニがいるようになっている。

不正した人について (詩)

評論家に言わせれば、それは、 「根本的な新しさはなく、大胆なバリエーションにすぎない」 ということになるのだろうが、 いくつかの、「大胆なバリエーション」が織り重なった、 「細部に神を宿らせる」ことに成功している作品は 根本的に新しい感動を与え…

アクリルのフタ (詩)

僕はここから抜け出せるのだろうか? アクリルのフタがかぶせられている。 自由にどこにでも行けるという気がしない。 妙に穏やかな表情で、 感情をこめている雰囲気をよそおって 感じよく挨拶をしているだけだ。 活気に満ちた気持ちは アクリルのフタを通過…

ゆっくりとした、無音のメッセージを聞くだろう

子供の写真を映画のように見ていると、 もう会えないような気がしてきて、せつない。 覚えてないものや 奥さんが撮ったもので、初めて見るものもある。 過ぎた時間が、ゆっくり無音で再生されると、 時間からこぼれ落ちそうになる。 別の世界に迷い込んで 戻…

手術中の会話のように

名前を知らない旅先で 酔いがさめて 少し震えながら聴いている。 頭の中でなっていると錯覚して 目をつむる。 感動しているのか くたびれているのか 寒いのか 記憶や先のことが思い浮かばない。 眠ることができずに 感じ続けていた。 緊張してこわばったまま…

人生を/公式どおりに/運用したい

データは悲しい テキストも写真も動画も消えてしまう 「今を生きる」と「将来のために」との比率を 修正しなければならない 人が死ぬドキュメンタリーばかり見ている 物語りを文字に分解して 50音順に並べ替える おびただしいデータの中に溶け込んで 「永…

マネキンと庭

真夜中にふらふら歩いていると真っ白い場所に行き着きました。 金色のヒマワリが咲き乱れていて、地下へと続く階段が隠されていました。 階段をとことこ降りていくと、保育園につきました。 小さな布団の中で寝たふりをしています。 階段を降りたはずなのに…

眠らない夜

内蔵がシビれて、グニャグニャたるんでいる。 身体がネイティブになってくる。 熱い。 幼児体験が動きだす。 ゴニョゴニョと右肩の上で ハイハイしている。 ヨチヨチしている。 遅い。 もっと速く。速く、速く! 彼女との薄暗い月夜のF棟屋上での アジア的…

視-線をたどって

僕に、まっすぐに向けられた視-線をたどって、彼女の意識空間へもぐり込む。意外に明るい、その狭くて広大な、重さのない何かの中で、僕は記憶装置を見つけるためにスタコラサッサ…スタコラサッサ…と飛びまわる。 分からない、まったく見当もつかない。養老…

記録してしまう

僕らは記録してしまう。 必死に 流されていかないように サランラップをねじって作った命綱を 脊髄の中ほどにひっつけて。 記録するんだ……。 サランラップは涙にぬれると 溶けてしまうんだよ ああ 向こう側の光がぼやけて 香港映画 のようになってる 水は蒸…

右から左へ

右から左へチカチカしながら上昇する音のイメージが聞こえる。あの移動の上に彼女が座っていると仮定してみよう。僕は素足でジャンプするカンガルーといっしょに、彼女の裏声の後を追った。太陽が眩しいからボランティア活動に参加して少し休もう。古本屋で…

移動式ピンポン玉

耳の中がちょっとづつ あ たたくなり 土で構成された地面から 紳士たちが 飛び出してくる 皿も割れるだろう ふちなしの黒い立方体からは子供たちが 生まれて みんなで僕の耳をふーふーするんだ ピアノが何かを始めそうだから 僕はキーボードに手を乗せて待っ…

暗闇の中の境界/ポップ機械/まったく

暗闇の中にも境界はあるのさ。 君の弱々しい音楽は、1辺が 3mくらいの立方体の中で行ったり 来たりしている。 ああ、イライラするよ。 僕の日々を比喩っているようじゃないか! 低音なのか高音なのか 判断がつかない音源から君の 幼児体験がチビチビと ト…

やわらかいレースの知性

やわらかいレースの知性が 目線をはずしたとしたら 僕は何と言ってか分からなくなるだろう 右に不吉な影があって 美しく 例のあの 未来を暗示している オミクジの裏にメッセージを書いて 僕は霊的な交信を試みる 僕は切なくて どんどん妖しい回路を増設して…

ぬるぬるしたハイテク空間

ぬるぬるしたハイテク空間だ。 洞窟の向こうには、冷たい、光の空間が 広がっている。 僕は今、バスケの練習着で、その 3次元迷路を俊敏に、 飛びまわっているのだが……。 なんだがここには、童話めいた雰囲気が ただよっている。 不吉な予感がする……。 1ト…

テクノ/妊婦の声

由緒ただしいミイラに、テクノを聴かせよう。 そして感想を アンケート用紙に書いてもらおう。 フリー解答で、率直に。 テクノの未来のために。 本の善し悪しを、 タイトルだけで判別できるようになった僕は、 神秘的なのだろう。 僕は出版社と取引をした。 …

3本の矢

スイートマン。 彼は熱帯雨林をかけぬけている。 きっといつの日か パパイヤマンを探しあてるだろう。 それは良いことかもしれないし 悪いことかもしれない。 渋谷パンプキンプリン。 君は唇を汚した。 受話器に内蔵された通信サーバから エラーメッセージが…

《 》

《 》を書くには適していない体調だ。でも音が鳴り始めたのだ。胃の空洞に悪い空気が溜まっている。重々しい雰囲気だ。指先の感覚が鈍くなっている。身体が拒絶反応を起こしている。眠い。それにダルい。でも音が鳴り続けているのだ。何が?《僕は正常でいら…

【インテリアパブリックver6】

ぼくが進入した背景都市の中では、古本色のものものが乱雑な子供部屋のように配置されていた。 数十種類の調味料を、にわか雨の水たまりに調合する少年に、朱色の三毛猫が襲いかかろうとしている。 1つの出来事を、3ホップ前までさかのぼって、そこから5…

腹ペコな音楽

給食室に行くと音楽室だった。 扉を開けると鍵盤だった。 冷凍庫の中にはバイオリンが眠っていた。 「256年に蘇った。私は聴いた。バイオリンが反転して、グニャグニャになり、私と響くモノが呑み込まれた。ウルトラの乳を飲んだ怪獣キングサイズだけが歌…

直方体の青い水の中

直方体の青い水の中をススム 音楽 カラダが軽い ボクはススム ギュン ギュン グッッ... ハァー フゥッー ショッキングピンクと黒のボーダーが 現れる 重なる 消える なんども なんども 現れる 重なる 消える なんども なんども... ボクは閉じられてい…

「ボク」について

僕から生まれた「ボク」は リアルタイムで生身の身体から遊離して 次々と軌道上に打ち上げられる 軌道上での 「ボク」の唯一の行動規範は 強度を効率的に獲得することで それは 僕からすると とても無節操で大胆にみえる 軌道上に散乱している「ボク」が 関…

思考体

灰色の不定形の浮遊物が邪魔くさいから 金色の立方体のプラスチック製の容器に閉じこめる 高まり 重なり合う数字でできたモノの群が 思考を 電子顕微鏡レベルの球体に 分解し 7倍の処理能力で再構成してゆくから それに気づいた思考体から順に指が 支配され…

マルさんに関するエピソード

新しい芸術を愛する社交家のマルコポーロ 「オレのことをみんなマルちゃんと呼ぶ」と彼は言った 先輩だから「マルさん」と僕は呼んだ 白く光る長方形の画面が 目をつむった時の目の中の空間に浮かんでいる 左側が一番明るくて 右に行くにしたがって暗くなる …